挑発的なアート集団MSCHFの内部を解剖する一冊 Phaidonは『Made by MSCHF』の刊行を発表。ブルックリンを拠点とするアート・コレクティブ「MSCHF」を包括的に取り上げた一冊で、多様な作品群を探りながら、創作の原則と進化のプロセスを明らかにする内容となっている。 「Big Red Boots」や顕微鏡サイズの「Louis Vuitton」ハンドバッグに象徴されるMSCHFの活動は、資本主義システムへの批評として、不条理を武器化するアプローチでアート界やその先に広範な影響を与えている。『Made by MSCHF』は、MSCHFによる12のプロジェクトをケーススタディとして取り上げ、それぞれの発案、実現、評価を詳細に解説している。具体的には、ダミアン・ハーストのスポットプリントを購入し88個のスポットを切り取り個別販売した「Severed Spots」（2020年）、アニメ風デートシミュレーターで税金申告を可能にした「Tax Heaven 3000」（2022年）、クラウドソーシングとサイバーブリングで全米を移動した共有所有のPTクルーザー「Key4All」（2019年）などが含まれる。プロジェクトごとに、共同創設者ルーカス・ベンテルとケビン・ウィーズナーによる解説、アーカイブ資料、製品写真、舞台裏の独占画像を収録している。 2019年、友人グループとして設立されたMSCHFは、2週間ごとのプロジェクトリリースから始動。現在は25名のチームと数百万人規模のファンを持ち、時にはグローバルブランドやセレブとの協働、または対立を通じて注目を集めている。『Made by MSCHF』では、彼らの作品を深く掘り下げるとともに、これまでの全プロジェクトを時系列でアーカイブ化している。 本書は、MSCHFの創作思想を凝縮した未公開の内部ハンドブックから始まる。「Always Punch Something, Never Punch Down」、「Make Objects with a Point of View」、「Nothing Is Sacred」といった創作原則を紹介。その後、アーティストのマウリツィオ・カテラン、Pentagramパートナーのナターシャ・ジェン、美術評論家ブレイク・ゴプニック、アート法学者エイミー・アドラーらによる6つのエッセイを収録している。 表紙デザインは、1950年代のPhaidonによるミケランジェロのモノグラフからタイポグラフィを引用し、MSCHFが2020年に発表した「MSCHF Wholesale」プロジェクトのブランドソックスの写真を組み合わせて構成。従来のアートブックの形式を覆す仕上がりとなっている。 『Made by MSCHF』は、アーティスト、ファッションデザイナー、クリエイティブディレクター、弁護士、そしてMSCHFのシグネチャーブランドのユーモアを愛するファンに向けた決定版モノグラフ。SNSで話題となるプロジェクトが多いMSCHFだが、本書はオンラインと現実の両方における彼らの文化的痕跡を明確に示す内容となっている。